東京大学大学院薬学系研究科 医薬品情報学講座 医薬品ライフタイムマネージメントサービス 医師のための薬の時間

UPDATE:2005/11/12

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ヒヤリハット事例サンプル(3)
 
抗不安薬、コンスタンからセディールへの急激な切替はコンスタンの離脱症状に注意
1 処方の具体的内容は?
  <40 歳代 男性>
処方(1)(10 月 1 日)

コンスタン錠(0.4 mg)       3 錠 1 日 3 回 毎食後服用 14日分
トフラニール錠(25 mg)       2 錠 1 日 1 回 夕食後服用 14日分


処方(2)(10 月 15 日)

セディール錠(5 mg) 3 錠 1 日 3 回 毎食後服用 14日分
トフラニール錠(25 mg) 2 錠 1 日 1 回 夕食後服用 14日分

2 何が起こりましたか?
 
  • 処方1から処方2に変更して数日後「今回変更となったセディールを服用してから 3 日たつのですが、食欲がなく、吐き気がして、また不安で落ち着かないのですが。時々暑くもないのに汗がでます。セディールというお薬の副作用だと思うんです。それにこの薬あまり効かないのではないでしょうか。以前から飲んでいるコンスタンの方がいいみたいですが・・・。」と患者から訴えの電話が処方医にあった。
  • 実際は、コンスタン<アルプラゾラム>を突然中止したため、その離脱症状が生じたと考えられ、一方でセディール<タンドスピロン>の治療効果発現には時間を要するために、直ちに十分な抗不安作用が得られなかったと考えられる。
3 どのような過程で起こりましたか?
 
  • 患者は、処方1をここ数ヶ月服用していたが、コンスタンによる副作用と見られる眠気が続くために、処方医は、10 月 15 日より処方2に示すようにコンスタンからセディールへ変更した。
4 どのような状態 (結果) になりましたか?
 
  • 処方医は、コンスタンなどのベンゾジアゼピン系薬剤の医療用添付文書の「使用上の注意」に、『大量投与又は連用中における投与量の急激な減少ないし投与の中止により、痙攣発作、せん妄、振戦、不眠、不安、幻覚、妄想の禁断症状(離脱症状) が現れることがあるので、投薬を中止する場合には、徐々に減量するなど慎重におこなうこと。』とあることを確認した。
  • 更に、セディールの医療用添付文書の「使用上の注意」には、『ベンゾジアゼピン系誘導体とは交差依存性がないため、ベンゾジアゼピン系薬剤から本剤に切り替えると、ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症状が引き起こされ、症状が悪化することがあるので、前薬を中止する場合は徐々に減量するよう注意すること。』とあった。セディールは、ベンゾジアゼピンレセプターとは相互作用せず、セロトニン1A(5-HT1A)レセプターに選択的に作用するため、ベンゾジアゼピン系薬剤との交差性がないことを再確認した。
  • 上記より、不安、吐き気、発汗などの患者が訴えた症状はセディールの副作用によるものではなくベンゾジアゼピン系薬剤による離脱症状であることがほぼ確実となった。
  • さらに、処方医は、離脱症状が十分改善してから減量を始め、中止までには少なくとも 4 〜 16 週間かけるのが望ましいとされている[文献 1)]に従い、コンスタンの投与量の漸減を行う事にした。
  • そこで、再びコンスタンを前回と同様に処方することとし、コンスタンは次回の受診時から漸減して退薬することとなった。また、離脱症状として痙攣、錯乱状態、せん妄などが生じた場合には入院治療をした方がよいため、患者の様子をモニタリングすることにした。
  • この患者においてセディールの併用とともに、コンスタンの投与量の漸減が行われたが、その処方内容を以下に示す。
処方(3)(10 月 29 日)、(11 月 12 日)

コンスタン(0.4 mg) 2 錠 1 日 2 回 朝夕食後服用 14日分
トフラニール(25 mg) 2 錠 1 日 1 回 夕食後服用 14日分
セディール(5 mg) 3 錠 1 日 3 回 毎食後服用 14日分

処方(4)(11 月 26 日)、(12 月 10 日)

コンスタン(0.4 mg) 1 錠 1 日 1 回 朝食後服用 14日分
トフラニール(25 mg) 2 錠 1 日 1 回 夕食後服用 14日分
セディール(5 mg) 3 錠 1 日 3 回 毎食後服用 14日分

処方(5)(12 月 24 日)

トフラニール(25 mg) 2 錠 1 日 1 回 夕食後服用 14日分
セディール(5 mg) 3 錠 1 日 3 回 毎食後服用 14日分

5 なぜ起こったのでしょうか?
 
  • 具体的には、コンスタンのような比較的半減期の短いベンゾジアゼピン系薬物を長期間規則的に服用した後、退薬によって離脱症状を起こす可能性がある[文献 2)]。同様に半減期の短いワイパックス<ロラゼパム>では、2 mg を7日間連用しただけで不眠、不安などの離脱症状が生じたという報告[文献 3)]や、ハルシオン<トリアゾラム>のような超短時間型睡眠導入剤では、退薬後、リバウンド現象、せん妄や痙攣などの離脱症状が生じるという報告があるにもかかわらず、急に中止したために起きたと考えられる[文献 4)]。処方医は処方変更時にこのことを失念していた。
  • 更に、処方医は、セディールは、ベンゾジアゼピンレセプターとは相互作用せず、セロトニン 1A (5-HT1A)レセプターに選択的に作用し、ベンゾジアゼピン系薬剤との交差性がないため、ベンゾジアゼピン系薬剤からの切り替えにより離脱症状が出やすくなることを失念していた。
6 二度と起こさないために、今後どう対応しますか?
 
  • ベンゾジアゼピン系薬剤に限らず全ての薬剤の「切り替え」時に、以前の薬剤が突然の退薬となり離脱症状が起こる可能性が高くなるので、切り替え方法には十分に注意する必要があることを再認識した。
  • 更に、重要なポイントとしては、薬剤の「切り替え」によって以前服用していた薬剤による離脱症状を、患者が「切り替えて新しく処方した薬による副作用ではないか?」ととらえられることがあるので注意を要する。
7 その他特記すべきことは?
 
  • ベンゾジアゼピン系薬剤の抗不安作用は常用量で耐性を起こしにくいため、連用による投与量の増大という現象は少ない。しかし、突然の投薬中止による離脱症状が生じる頻度は高いため、処方変更時には特に注意が必要である。半減期の短いベンゾジアゼピン系抗不安薬は長時間作用型と比べより早期に離脱症状が形成される傾向があり注意を要する[文献 5-6)]
  • セディールの自律神経失調症(心身症)に対する全般改善度(中程度改善以上)でみた治療効果には数週間かかるといわれている[文献 7)]。セディールと同様にセロトニン1A(5-HT1A)レセプターに選択的に作用するブスピロン(本邦未発売)はコンスタンと比べてハミルトンのうつ病尺度でみた不安障害患者に対する治療効果の速度が遅いことが知られている[文献 8)]
参考文献
1) Br.Med.J.,291:688-690,1985.
2) Am.J.Psychiatry,142:114-116,1985.
3) Pharmacology, 32: 121-130,1986.
4) Lancet,2:1389,1984.
5) Psycopharmacol.Bull.,21:91-92,1985.
6) Am.J.Psychiat.,41:848-852,1984.
7) 基礎と臨床、26: 5475-5492,1992.
8) Psychopharmacol.,105:428-432,1991.

注 意
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