ドライパウダー吸入式ステロイド剤であるパルミコートタービュヘイラー(一般名:ブデソニド)とイトリゾール(一般名:イトラコナゾール)を併用した場合、副腎皮質ステロイド剤を全身投与した場合と同様の症状があらわれる可能性がある。 |
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これは、イトラコナゾールが、酸化代謝酵素チトクロムP450 (CYP) 3A4 を介したブデソニドの代謝を阻害し、その血中濃度を上昇させるためである。まず、両薬の併用によってクッシング症候群が惹起した症例を示す。
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症例1 [文献 1)] |
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70 歳の白人女性、喘息治療のために長期間にわたってブデソニドの吸入療法が行われていた。ある時、皮膚と皮下組織の Scedosporium apiospermum 感染のため 2 ヶ月間にわたってイトラコナゾールが使用された。その後、患者はクッシング症候群を呈し、二次的な副腎皮質機能抑制に陥り、ハイドロコルチゾン置換での長期の処置が必要となった。
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さらにブデソニド吸入時にイトラコナゾールを内服したときの、ブデソニドの血漿中濃度の変化を検討した結果が報告されている [文献 2)]。具体的には、イトラコナゾール200 mgを 1 日 1 回 5 日間服用し、最後の服用の 1 時間後に 1000 μg のブデソニドを吸入する試験が行われた。イトラコナゾール併用によって、ブデソニドの血漿中濃度 AUC は平均 4.2 倍(範囲: 1.7 倍 〜 9.8 倍)に上昇した (図1)。また、イトラコナゾール併用時に、ブデソニド吸入によるコルチゾール産生の抑制は、有意に増強され、血漿中コルチゾールの AUC は43% 低下した (図2)。これは、イトラコナゾールがブデソニドの初回通過代謝(CYP3A4 による代謝)を阻害し、その血漿中濃度が上昇したためと考えられる。
実際、ブデソニドは、ヒト肝ミクロソームを用いた研究で、CYP3A によって代謝されることが証明されている [文献 3)]。さらに、ブデソニドの代謝は、ケトコナゾール(IC50 値は 0.1 μM)、トロレアンドマイシン(IC50 値は 1 μM)、エリスロマイシン、シクロスポリンなどによって強く阻害されたことが報告されている。イトラコナゾールによるブデソニドの代謝阻害実験は報告されていないが、過去の CYP3A4 基質に対する阻害活性からみて強力な阻害作用があると考えられる。
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この他にも、吸入ステロイド剤とCYP3A4阻害作用を有する薬剤の併用によってステロイドの全身性副作用を惹起した症例が報告されている。 |
症例2 [文献 4)] |
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27 歳女性、喘息治療のために、フルチカゾン(商品名:フルタイド)の吸入療法 (1000 μg/日) が行われていた。患者は、HIV陽性であり、妊娠時より、リトナビル (商品名:ノービア)(200 mg/日) によるHIV感染の治療が開始された。その後、患者には、著明な中心性肥満が認められ、産後10日目に、クッシング症候群と診断された。フルチカゾン投与は中止され、患者は副腎皮質機能が回復するまで、経口グルココルチコイド剤による治療を受けた。本相互作用は、リトナビルが、CYP3A4 を介したフルチカゾンの代謝を阻害し、血中フルチカゾン濃度を上昇させたために生じたと考えられた。 |
対策(代替薬など)のポイント |
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ブデソニドの投与量を減らすという選択肢は、喘息治療効果が低下する可能性があるので推奨できない。イトラコナゾールのかわりに、CYP3A4 阻害作用の弱いテルビナフィン(商品名:ラミシール)を使用するという対処が考えられる。あるいは、クッシング症候群などが発症していないかをチェックしながら慎重に両剤を使用することも考えられる。
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文献 |
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- Ann Pharmacother., 38: 46-9 (2004)
- Clin. Pharmacol. Ther., 72: 362-369 (2002)
- Drug Metab. Dispos., 23: 137-142 (1995)
- AIDS, 19: 740-741 (2005)
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